今回取材を行なった「アーケードゲーム博物館計画」。入館料のみならずプレイ料金すら取らないこの状況下で、どのようにして設備を維持しているのか。また、将来的に何を目指すのか。当団体・代表を務める伊藤 けい氏にお話をうかがってきた。

趣味の範ちゅうを大きく超えたすさまじいまでのゲーム愛と、それを支えるスタッフの努力の一端をどうか知っていただきたい。

引っ越しがきっかけでできたタイトーさんとの縁

FOOすけ(以下、F):本日はよろしくお願いします。今、倉庫内を見て回ってきたのですが、ものすごい人が多いですね。

伊藤氏(以下、伊):そうですね、皆様に楽しんでいただけてうれしいです。今日はいつもより多いですね。ふだんは延べ人数でだいたい50人ぐらいなのですが、今回は70人ぐらいの方においでいただいています。

F:そんなにいらっしゃってるんですね。ところでこの場所は、タイトーさんの倉庫をお借りしているということなのですが、そこに至った経緯とはどのようなものなのですか?

伊:ここ以前に展開していた場所がやっぱり大きな倉庫だったんですけど、大家さんの事情で急きょ取り壊しが決まりまして。それで、ネットを使ってほかに展開できそうな場所を探していたんですが、タイトーのかたから「オールドゲーム保存のお手伝いができればと考えています。熊谷でよろしければご協力したい」という申し出をいただき、それならばぜひ、ということでここ(熊谷)に来ることになったんです。

F:メーカーさんからご理解をいただけるとは、非常に喜ばしいことですね。

伊:そうですね。うれしいかぎりです。昔からメーカーさんにも色々とアプローチはしているのですが、メーカーさん的にはこういう機械を持つとなると、それが資産となってしまう。そういう点からも、なかなか協力が難しいと。そんななかで、ビデオゲーム制作の元祖たるタイトーさんにご協力いただけたことは、とてもありがたいなと思います。

F:なんというか、運命的なものを感じますね。

伊:ちなみに、タイトーさんには場所ももちろんですが、メンテナンス的な部分でもサポートしていただいているんです。

F:と言いますと。

伊:メンテナンスにおいて、我々ではどうにもならない部分についても、タイトーさんには技術があるので「じゃあ見ておきますよ」っていう具合で対応していただけるんですよ。もともとこの施設はタイトーのサービス部といってゲーム機のメンテナンスやサポートサービスをするところなので、昔からの技術に詳しいかたがいらっしゃるんです。なので、修理を手助けしていただく、ということがありますね。

F:それはすごいですね。とくに昔の修理技術などは貴重でしょうし。

伊:タイトーさんにはおんぶにだっこでお世話になっていて、本当に感謝しております。

思い入れのあるゲームだからこそずっと遊びたい!

F:この施設には常連さんとかは多いのですか?

伊:今日いらっしゃっているなかでは、3分の1くらいが常連さんですね。残りはほぼ初めていらしてくれたかたかと思います。

F:やっぱり『ギャラクシアン3』目当てのかたが多いのでしょうか。

伊:そういうわけでもないですね。皆様それぞれ思い入れのあるゲームがあって、それを目当てに来られているようです。以前、展開していた場所ではわざわざ立川から『プロップサイクル』だけを目当てに来られるかたがいらっしゃいました。来たら『プロップサイクル』だけを遊び、帰られるという。

F:硬派だ(笑)。

伊:思い入れのあるゲームがどこからも撤去されてしまって、ついに遊べなくなってしまったと思っていたものがたまたまうちにあり、それをネットで知って遊びに来る、という形であることが多いようです。

F:なるほど、気持ちはすごくわかりますね。

伊:もともと我々も、うちのフラッグシップである『ギャラクシアン3』をずっと遊んでいた仲間たちが「いつかゲームセンターからこのゲームはなくなってしまうから、我々で保管しておかなければ」というところからスタートしているので、思いとしては一緒なんですね。自分が遊んでいたゲームがなくなってしまうのは寂しいと。

F:『ギャラクシアン3』だけではなく、ほかのゲームも保管しようと思われたのはどうしてですか?

伊:『ギャラクシアン3』を購入する際、13人で共同購入したのですが、それぞれ別に思い入れのあるゲームも持っているわけです。で、「今度このゲーム機も置いてもいいかな?」っていう話になるんですが、『ギャラクシアン3』があれだけ大きいので、ほかの筐体がみんな小さく見えてしまい「いいんじゃない?」と(笑)。それが重なって台数が増えていったという(笑)。

確かに巨大な『ギャラクシアン3』筐体(写真奥)。これが基準となれば、大抵の体感ゲーム機は小さく見えることだろう。

確かに巨大な『ギャラクシアン3』筐体(写真奥)。これが基準となれば、大抵の体感ゲーム機は小さく見えることだろう。

F:そういう経緯だったんですね。

伊:最終的には、やはりゲームなんだし保管するだけでなく、遊んでもらえるようにしたほうが楽しいだろう、ということで現在のような形になりました。遊ぶだけであれば営業許可も不要ですし。カンパ箱などは置いていますが強制ではなく、あくまでも無料で好きなだけ遊んでいってくださいね、というスタンスでやらせていただいています。

F:遊ぶ側としては最高のアトラクションだなって思います。

伊:そういう風に思って、遊びに来てもらえるだけでも私たちはすごくうれしいですね(笑)。

大型筐体ゲームをできるかぎり残したい

F:いわゆる大型筐体が多いのには理由があるのですか?

伊:汎用筐体で遊べるビデオゲームに関しては当方でも1000タイトル以上保管していますが、それ以上に、世界中にコレクターさんがいらっしゃるので、そちらについては皆さんにおまかせしようと。大型筐体というのは、筐体の構造やレバーなどのインターフェースも含めて成立しているので、これを例えばエミュレーターとかでやっても「体感ゲームなのに体感できない」ということになってしまう。実機でなければ当時のものは再現できないので、だったらそのゲームのプラスアルファの部分も含めて我々が保管しようと思ったんです。『ギャラクシアン3』もそうなんですけど、我々が欲しいと思っていたゲームが、たまたま大型筐体ばかりだったということもあるんですが(笑)。

体感ゲームは動いてこそ。エミュレーター上での再現では、やはり実機に遠くおよばない。

体感ゲームは動いてこそ。エミュレーター上での再現では、やはり実機に遠くおよばない。

F:そういう理由もあったんですね(笑)。

伊:しかし、基本的にはまだゲームセンターに置いてあるものはゲームセンターで遊び、そこでお金を使ってもらって少しでも延命してほしい、という考えが主なんですね。でも、ゲームセンターが閉店になってしまったときのための受け皿というのはあるんだと。うちに連絡してもらえれば、何とかできるかもしれないと、そういうスタンスなんです。

F:緊急手段のようなものであると。

伊:ただ、ゲームセンターが閉店となり、大型筐体を引き取る相談をいただくときに、それがほかのゲームセンターではまだ現役である場合は、保管の際のコストなども含めて慎重に検討します。「これが日本では最後の1台なんです!」という場合ならば、可能なかぎり対応していきたいと考えています。

F:コストの問題はやはり大きいですよね。

伊:そうですね。とくに、うちは営利目的でやっていないので、機械を導入する際にもそんなにお金を支払えるわけではないですし、いざ導入してみても、じゃあ維持費はどのくらいかかるのか、自腹ですべてまかなえるようなものなのか、など考えなくてはならないことは多いです。正直、そこはとても厳しい部分ですね。

F:自腹でまかなうとは……本当に頭が下がります。

伊:たまに、そのゲームを残したいかたがご自身で購入されて、その置き場所としてうちにお願いをしてくることはありますね。そういう場合は、スペースがあれば対応させていただくこともあります。実際に、何台かそういう機械も置いているんですよ。

機器を維持することだけでも大変!

F:この施設を維持するにあたって、一番苦労されている点は何でしょうか?

伊:ハッキリ申しまして、やはり維持費ですね。これは本当に大変なんです。

F:実際どのようにして捻出されているのですか?

伊:全体の費用の7割は私の自腹で、2割が代表補佐とスタッフ、残りの1割がご来場いただいている皆様からのカンパ、という感じになっています。

F:代表だけで7割ですか……! 毎日稼働しているわけではないとは言え、これだけの面積を占有しているのですから、それなりに費用もかかりますよね。

伊:場所代もそうですが、機械の維持費やメンテナンスについても結構かかりますね。何しろブラウン管モニターを使う古い機械ばかりなので、部品ひとつとっても同じものを手に入れづらい。そうなると、互換性のあるものを調達してくるとか、あとはオークションなどで同じ部品が出ていたら、それを落札するとか。そういうところにコストがかかって大変ですね。

F:そうですよね。もはや作られていない部品も多いでしょうし……。

伊:ボリュームとかバネみたいな汎用性のあるものだったらまだいいのですが、専用レバーだったり、ボタンのなかの部品だったりすると替えが効かないですね。そういうものはあるうちにストックするなど、そういうことをしておかないと修理が間に合わないんです。メーカーさんと話をして「こういう部品はまだ残っていますか?」とお聞きすることもあります。

F:維持だけでも相当苦労されているのですね。ちなみに年間でどのくらいの費用がかかるものなのでしょうか。

伊:7ケタはいきますね。

F:7ケタですか!?

伊:ええ。なので、来場されたかたから頂けるカンパは本当に助かっております。これがないと我々スタッフの負担はもっと増大してしまう。非常にありがたいことです。

F:こういう事業がアーケードゲーム業界に認知されて、補助費みたいな形ででも出てくればいいんでしょうけどね……。

伊:そういうのがあればうれしいんですけどね。なかなか昔のものは振り返ってもらえないので、厳しいです。色々なメーカーさんともお付き合いさせていただいていまして、そういう相談をすることもあるのですが、やっぱりゲーム業界全体として過去の作品(現物)の保存というのはあまり積極的に行なう案件ではないようです。

F:なんとかしてこの活動を盛り上げられれば、というところですよね。

伊:皆さんに我々の活動を知っていただいて、ゲームの保存活動をしている奴らがいるんだ、ということを認知してもらえるといいのかなと思います。ユーザーやオペレーターサイドからそういう話が盛り上がっていけばいいかな、というのはありますね。一番いいのはゲームセンターに遊びに行っていつまでもゲーム機にコインいっこ入れて、売り上げを出して、ずっとずっとゲームセンターで活躍してもらうことですね。

F:将来的には、活動やその規模など、どういったところを目指されているのですか?

伊:当団体が「博物館計画」と銘打っていることもありますし、ただゲームをプレイできるというのではなく、そのゲームが生まれた経緯であったり、発売された頃の時代背景であったりとか、プラスアルファの知識を知ることができるような施設にしたいですね。文字の上だけでなく、実際に体験もして理解できる、というようなものでしょうか。

F:それはすばらしいですね! 実現の日を期待しています。本日はありがとうございました。

 

古くからのゲーマーであれば、かつて遊んでいたゲームがプレイできなくなった経験は少なからず持っているのではないだろうか。今回の記事を機に、アーケードゲーム博物館計画の活動について、少しでも興味がわいたのであればうれしいかぎりである。

(聞き手・FOOすけ)

■関連リンク

アーケードゲーム博物館計画

「アーケードゲーム博物館計画倉庫」レポート記事はこちら

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著者プロフィール

FOOすけ
7つのペンネームを使い分け(本当は3つくらい)、さまざまな媒体で執筆活動を行なっている覆面ライター。でも隠しているわけでもないので、聞かれればお答えします、とは本人の弁。