第3回 仕様書ができあがったら?
季節は春。新人さんが職場にあふれる季節となっております。そんななか、意気揚々と働く新人さんを尻目に目と鼻のかゆみと戦っている花粉症のおっさんがここに。ご無沙汰しております、風来の企画屋でございます。
前回、仕様書が何となくできあがるところまでお話させていただきましたが、ここからは「仕様書」ができあがったあと、どういう流れになるかを簡単にお話ししたいと思います。
打ち合わせは効率よく!
ある程度仕様書が完成したらプログラマーさん、デザイナーさんなど企画以外の職種の方と仕様書をもとに打ち合わせを行ないます。
企画屋が「やりたい」と思っていることは2回目でも説明しました「ざっくりバージョン」で一度説明しているとはいえ、詳細化したときに新たな疑問や検討しなければならない部分があるやもしれませんので、そのあたりについて仕様書を見ながら詰めていきます。
この打ち合わせが結構な勢いで時間を取られますので、忙しい他業種の方の時間をなるべく使わないように簡素かつ分かりやすく進行しなければなりません。
ダラダラと説明していると説明を受けている方が要点を理解できなかったり、無駄に時間ばかり過ぎてしまうということにもなり兼ねませんので、企画屋というのはプレゼン能力も必要になってきます。
「何十ページもある仕様書を頭から読むだけ」という頭の悪い打ち合わせ方法があるのですが、私はそういうことはしません。
私のやり方は、打ち合わせ前に仕様書データを渡しておき、「見出しだけでもいいのでザッと確認しといて下さい」と伝え、気になった部分について打ち合わせで互いに確認するという形を取っています。
こうすることで無駄な時間は大幅に減りますし、他業種のかたは自分の聞きたいこと、疑問点がクリアできるため、効率がいいです。
さらに、自分担当部分の疑問点は自分で聞かないと返答が来ませんので、自然に企画屋とのコミュニケーションも取れますし、口下手な人でもしゃべらざるを得ないので自然とやりやすいチームになっていきます。ま、それでも一切喋らない「困ったちゃん(※1)」もいますが……。
こまかい部分は仕様書に書いてある(はず)なので、実際に作るときに仕様書を見ながら作ればよく、こちらからも一語一句説明することはありません。仕様書には書いてない、抜けていることを他業種視点で突っ込んでもらえればいいので、企画側としても楽になりますね。
こんな企画屋は困る
で……よくいるのが穴だらけの仕様書を持って打ち合わせをやりたがるダメ企画屋さん。自分の仕様のアラや解決できていない部分をプログラマーさんとかに決めさせる奴がいるんです。例えばこのような感じで。
「スコア(点数)は何桁がいいんですかね?」 → お前が決めろ。
「どう作ればいいんですかね?」 → それを決めるのが企画の仕事だろ。
「どうしたいんですか?」 → 知らんがな。こっちが聞きたいわ。
上記は過去の打ち合わせで出た企画屋からのマジな質問。何かカンちがいしている企画屋が多いのですが、ゲームの企画というのはある程度までは企画屋が決めないと作業が進みません。
ゲームというのはチームで作っていくものですから、企画屋が全部決めていいとは言いませんが、点数の桁数なんかは1回決めて作ったあと、もし足りなくなったら相談すればプログラマーさんも検討してくれます。
だが、仮決めでも桁数の指定が無ければプログラマーさんは下手したらそこで作業が止まってしまいますし、「何桁がいいですか?」なんて企画から質問されてもどのぐらい敵が出てくるのか、1匹の敵の点数が何点ぐらいを想定しているのかはプログラマーさんは知る由もありませんから答えようがないんですよね。そんなこと、企画が決めろってんだ(怒)。
しかし穴だらけの仕様書に突っ込みを入れたり、矛盾点や問題点がある、と指摘すると「どうしたいんですか?」と返してくる○○な企画屋がいる。「いやいや、お前がどうしたいんだよ!?」って言ったら「わかんないですよ!」と泣きながら逆ギレしてきました。同業種ながら情けない……(※2)。
口は災いのもと……
泣きながら……で思い出しましたが、以前、某RPGの戦闘システムを担当しているとき、シナリオライターから戦闘中に使うセリフを作ってくれと言われました。数日かけてライターさんの作ったキャラクター設定を見ながら、キャラごとの特徴が出るように配慮してリスト化して渡したんです。
そうしたら、音声収録時にそのシナリオライターが「私が戦闘中のセリフも全部考えました!」とか収録スタッフにえらそうに言っていて……さすがにこのときはどうしようかと思いましたわ。
「は!? 考えたのは俺だろ?」とは思ったけれど、その場でキレて現場の雰囲気が悪くなるのもマズいだろうとグッとガマンしたんです。モヤモヤしたモノを抱えながらしばらく収録を見守っていたら、戦闘部分の台詞収録が始まりました。
ここで現場のディレクターさんからどういったシーンでどういう感情でしゃべればいいのか簡単に説明して欲しいとシナリオライターに話が振られたのですが……当たり前のことながらちゃんと答えられない。自分が考えた台詞じゃないし、どこで使うか理解してないから当然ですよね。
泣きそうな顔で俺を見るので「あれ? 戦闘中のセリフもあなたが考えたんじゃなかったでしたっけ?」と嫌味を言ったら半泣き状態になった(いや、泣くぐらいなら最初から余計なこと言わなきゃいいだろが)。
かわいそうなので一から十までこまかく説明したら、以後、ディレクターが戦闘部分の台詞では全部俺に問題ないか確認取ってくれるようになった。いい人だ(笑)。
脱線しました(元気かなぁ、あのシナリオライターさん)。
※
仕様書があって打ち合わせも終わった。となるとつぎは「実作業開始」となります。絵に描いたモチ状態のゲーム(仕様)を実際に遊べるモノにしていく作業ですね。
デザイナーさんは今までに見たことのないような絵を、サウンドさんは音を聞いただけで心震えてやる気が起きるような楽曲や効果音を、プログラマーさんはユーザーが遊びやすく直感的な触り心地になるよう配慮しつつゲーム全体を作っていきます。そして企画屋は……そんなプロ集団を暖かく見守ります(仕事しろよ!)。
おっと、もうこんな行数ですか。少し長くなったので今回はこんなところでいったん止めましょうか。次回は……今回のつづきの「実作業が始まったら企画屋は何をするのか」にしようか、それとも「物事の決めかた、割り切りかた」を書くか迷っております。更新が少し先になるかもしれませんので上記とは全然ちがうことを書くかもしれませんが、良かったらまた読んでいただければと思います。
【用語解説】
※1……困ったちゃん アニメやゲーム、自分の好きなこと以外ではほとんど口をきかないという、社会人としては「どうなのよ」という種族のこと。ゲーム業界ではこういう人が多い。逆に言うとこういう人ばっかりで、明るくコミュニケーション取れるような人のほうが少ない。ま、仕事ができれば「困ったちゃん」でもいいんですけどね。
※2……同業種ながら情けない 企画屋なのに企画書が作れない、仕様書が書けない、物事を上手く説明できない、プレゼンテーションができない、声が小さい、アイデアがヘボい、プログラマーやデザイナーさんの苦労を理解しない、そもそもゲームを面白くするための考えやセンスが無い……そんな御仁が多いです。企画屋ってのは会社に来てゲームの話をしていればお金もらえる訳じゃないんですよ。
(文・風来の企画屋)
著者プロフィール
- ゲームプランナー
- 中古ファミコン屋店長からスタートし、プログラマーを経てゲーム企画屋に。ディレクターも頼まれればやるし、プロデューサー経験もあるが「やっぱり企画が面白い!」と企画に固執いているオッサン。来年発売のダライアスをPS4版でやろうかVita版でやろうか悩み中。
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