【第12回】ライター業が縁で出会ったゲーム(後編)
今回のお話は、前回からのつづきとなります。まだ中編をご覧になっていない方は、そちらからお読みください。
戦争が開始されるも、思わぬ戦績に
ついに国家の存亡を賭けた戦いが始まりました。このゲームでの戦争は1週間で7戦が行われ、1勝でも多いほうが勝利となります。今回の場合、1敗6分けでも敗北で私の所属国は滅亡という状況でした。
しかし第5戦を終えた段階で2勝1敗2分けという、奇跡的ともいえる戦績となっていました。つまり第6戦で引き分け以上であれば負け越しはなくなり、今回の滅亡は回避できます。
予想外に善戦できた要因はいくつかありました。まずは滅亡が目前にせまったことにより、戦意が高まったプレイヤーが多かったこと。そして日本人の判官びいきということか、滅亡しそうな国に手を貸したいという他国プレイヤーが多く参戦したことです。
もともと数に差があったから劣勢だっただけで実力的には互角以上なので、他国プレイヤーの参戦によりその問題点も解消されたというわけです。
慣れない優勢がスキを生むことに
第6戦も、おおむねこちらが押す展開となっていました。週末ということもあって参戦プレイヤーが多く、質量ともに勝っていたからです。敵陣側に深く攻め込み、これはもうこのまま勝利となりそうだなと誰もが考えていました。
そうして自軍のプレイヤーの大半が前がかりになっていたところに、相手のエースパーティがこちらの陣の奥に突入してきました。本来であれば監視要員がいるのですが、勝ちを確信してしまったがゆえにそれをおこたったのが原因です。
奥の陣を奪われ、そこを足がかりに本陣を落とされたら第6戦は敗北となります。つづく最後の第7戦も負けたら滅亡になるため、先ほどまでの勝ち確定ムードが一変してしまいました。そして、その重苦しい雰囲気のなか、ついに「例の策」を使うかどうかの判断をするに至るのです。
考えてもいなかった効果・その1
陣を奪うためにはそこを守るNPCを撃破する必要があるので、それを妨害しNPCが勝てば陣は守れます。連係を妨害したところでエースパーティがNPCに負ける可能性はあまり高くありませんが、なにもせずただ待っているよりは可能性があります。NPCが負ける前に実行しなければ意味がないので、さっそく自軍全体に策の用意が指示されました。
しかしここで、まったく想定外の事態が発生してしまいます。策は「相手の○○さんにみんなでエールを送る」というのが用意の合図だったのですが、事前の打ち合わせに参加していない他国のプレイヤーは「エールを送る」を額面通りに受け取ってしまったからです。
他A:「戦争中でも優れた相手にはエールを送るとは、すばらしい!」
他B:「滅亡するかもしれない状況なのに相手を賞賛できるってすごいね……」
他C:「この習慣は自国にも取り入れたいくらいだ」
などなど、とにかく相手の連係を妨害するための小細工だなどと考えている人は皆無でした。
台風:「どういうわけか、美談のようにされてしまっていますね……」
師範:「いまさら小細工でしたなんて言えない空気になっているけど、困ったなあ……」
計画発案者として師範らの主導部と行動をともにしていた私も、この流れには驚いたものです。そして、ヘタに小細工だったことを公表すれば第7戦はおそらく負けることも予想できました。賞賛が失望に変わり、第7戦には他国プレイヤーの参加が期待できないであろうからです。
そこで計画を変更し、この場は本当にただエールを送るだけにしてもらいました。自軍全体に「3分後○○さんに『GJ』『お見事』など迷惑となりにくい簡潔なエールを送ります」とアナウンスし、さまざまな紆余曲折を経たこの策がついにお披露目となります。
考えてもいなかった効果・その2
事前のアナウンスでわざわざ「迷惑となりにくい簡潔なメールを……」としたのは、同士の中には改行をふんだんに用いた「力作」を用意して妨害する気のプレイヤーも多かったからです。そんなものを送られては、エールを送るだけというわけにはならないので自重してもらいました。
「やれやれ、これでどうにか事なきを得られたかな……?」
と思いつつエール送信時間を見守っていると、さらにとんでもない事態が発生しました。なんとエールを送った相手エースパーティのリーダーが回線落ちしてしまったのです。
じつのところその理由は当時も明らかになることはありませんでしたが、その頃は今とちがい大容量回線が一般的ではなかったので、過負荷が原因だった可能性もあります。
いずれにせよエールが殺到するのと同じタイミングで、相手エースパーティの主要メンバーが文字通り「消滅」しました。その結果NPCは勝利して陣は守られ、第6戦は勝利し滅亡は回避されたのです。
回線落ちの件で運営も調査に乗り出すことに
戦争には勝利し滅亡こそ逃れましたが、回線落ちの件はもちろん問題となりました。相手からすれば意図的に個人対話を集中させ、過負荷による回線落ちを狙ったように見えたからです。私は首謀者として名乗り出て、運営側の取調べを受けることになりました。
調査では正直に当初の目的(ログ流しによる連係の妨害)は打ち明けました。それについては戦場で相手側に個人対話が送れるのはシステムに落ち度があったということで、今後のバージョンアップで戦場にいる戦争相手に個人対話を送れなくすることで解決します。
問題は「意図的に回線落ちを誘発するつもりがあったのか」というところですが、これについては本当にそんなつもりもなかったので否定しました。運営が過去ログを調べ「迷惑となりにくいエールを……」の一節を確認したことで、信用もしてもらえました。
最終的には「バージョンアップで対応するまでに同じことをやったらアカウント停止」という、問題の大きさから考えればほぼお咎めなしといえる形で決着しました。ちょっとした小細工のつもりがここまで大事になるとは思ってもみませんでしたが、今となってはなつかしい思い出です。
ちなみにセコイ手を考えたり予想外の事態を取り繕ったり、運営相手に言い逃れをし事なきを得たということで私もある意味で国の有名人になってしまいました。
国会で追及された政治家がするのらりくらりとした答弁の原案でも考えてそうな感じだった、とのことから私に与えられた肩書きはなんと「官僚」。よりにもよって官僚かよって話ですよね(笑)。
師範とかのかっこよさにくらべてどうにもネガティブイメージが強かったのですが、ゲーム引退まで「官僚さん」などと呼ばれて過ごすことになりましたとさ……というお話でした。
今回はやや長くなりましたが、お付き合いいただいてありがとうございました。
著者プロフィール
- ゲームライター
- ゲームを始めて、はや○十年となりました。小さいころはロボアニメをよく見ていたせいか、ライターになってもロボにやたら縁があります。「誰かの成功から学ぶ」ためでなく「誰かの失敗を繰り返さない」ために歴史を学んでいましたが、あまりその教訓は生かされていない気がしますね。
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