【第13回】版権もののお仕事トラブル

今回はいわゆる「版権もの」で起こったことについてのお話です。ここで言う版権ものとは小説やマンガ、アニメなどの原作がある作品をゲーム化したものを指します。

取り上げる題材は日本有数のロボットアニメとして名高い「機動戦士ガンダム(1972年放映)」シリーズのものですが、その名前くらいは聞いたことがあっても内容自体はよく知らない方もいるかもしれません。そこで今回のお話を楽しんでいただくため、ひとつだけ覚えておいていただきたい点があります。

一口にガンダム作品といっても、「機動戦士ガンダム」とその世界観で語られる通称「宇宙世紀作品」と、1994年放映の「機動武闘伝Gガンダム」以降のTVシリーズに多く見られる、宇宙世紀ではない世界観で語られる通称「非宇宙世紀作品」があります。今回はこの点を覚えておいていただければお話が伝わると思います。

自称ガンダム好き、とてつもないミスを犯す?

それはとあるクロスオーバー作品の仕事をしていたときのことです。この作品シリーズはそれまで「宇宙世紀作品は宇宙世紀作品のみ」といった感じで、宇宙世紀と非宇宙世紀が同じ舞台に立つことがなかった前例を打ち破った話題作の続編でした。

私はガンダム作品にやたら縁があったこともあり、人並み以上の知識はあるほうだったと思います。独特な固有名詞の意味もほぼ理解できていましたし、どちらかといえば周囲のミスを指摘する側でした。そんな背景もあり、できあがった原稿やデータ部分の名称チェックも念入りにと頼まれていたものです。

個人的にはしっかりチェックもしたつもりでした。しかし、クライアントから返された原稿には思いもよらぬチェックが入っていたのです。

編集:「あれ、台風さん。ガンダムのメイン射撃ってビームライフルだよね?」
台風:「ええ、あれはまちがいなくビームライフルじゃないですか?」
編集:「おかしいなあ。なぜかビームライフルにチェックが入ってるんだけど……」
台風:「え?でもあれビームライフルですよね。資料を見てもビームライフルになってますし」

ビームライフルのゲシュタルト崩壊が起きそうな、普通の人が聞いたら意味不明の会話が事の発端でした。しかしビームライフルといえばガンダムの武装の中でも代表格といえるもので、これをまちがえるわけがありません。

いったいこれはどういうことなのか。しばらくチェックを精査しているうちに答えが出ました。

手書きのチェックが謎を深めることに

最近では紙面になるデータを送り、PDFなどでチェックをするスタイルが多くなりましたが、一昔前は印刷したものに赤ペンでチェックを入れるのが主流でした(もちろん現在でも、PCのない場所でチェックしたいがためにこの手法を好む方も少なくありません)。

今回も印刷物に手書きのチェックが入れられていたのですが、これが正直のところ字体が非常に雑なかたでした。先のビームライフルに加えられた修正も、紙面に目を近づけるとようやく見える程度の大きさで「ビーム」と「ライフル」のあいだに「・」が打ってありました。つまり、正式名は「ビーム・ライフル」だったのです。

確かにガンダムの資料を見ても「メイン射撃 ビーム・ライフル」とあります。ただ正式名称がそうとはいえ、口に出して言う場合に「ビーム」「ライフル」といちいち分けて言う人はいません。「ビームライフル」と続けて言うのが常識となっていたので、「・」の有無など誰も気にしなかったのが原因でした。

答えが分かってしまえばなんということはない問題です。では一発変換しておきます、ということで問題は解決したかに思えました。ところがとんでもない落とし穴が待っていたのです。

チェック、再び!

武装名以外では目立ったチェックはなかったので、これでこの仕事も無事に終わるかなあと考えていたある日、スケジュール的にきつかったため後発で出した部分のチェックが戻ってきました。

この部分は例の「ビームライフル」問題に対応してから出したので、武装名に問題はないはずです。しかし……。

台風:「デュエルガンダムアサルトシュラウド? こいつだけ長い名前だなあ……こりゃデザインさんもキレるわぁw」
編集:「こいつだけ名前のところの文字の大きさおかしくなってるしね。ドムとか百式を見習えよと……」

いくら非効率とはいえ、正式名称の簡略化や省略は許されにくいのが版権ものの怖いところ。まったく不自由なことだよなあと思いつつデュエルガンダムアサルトシュラウドのページを見ていると、「ビーム・ライフル」のところに「“・”トル」とチェックが入っているのを発見してしまいました。

あれ? ビーム・ライフルが正式名称なんじゃないの? 人によって正式名称がちがうとかシャレにならんぞ……。と謎は深まるばかりなので、もう先方に問い合わせることになりました。

その結果、「宇宙世紀作品はビーム・ライフル」「非宇宙世紀作品はビームライフル」という衝撃的な回答を得ました(デュエルガンダムアサルトシュラウドは非宇宙世紀作品の機体だったので、ビーム・ライフルでは×だったのですw)。

私は宇宙世紀も非宇宙世紀も大半の作品は観ましたが、さすがに「・」の有無を考えてまで観たことはありません。それなりに知識はあると思っていたのですが、このときは見事にしてやられたと思ったのを今でもよく覚えていますね。

ちなみにガンダム作品には∀(ターンエー)ガンダムという、「宇宙世紀・非宇宙世紀のどちらもが行き着く先の世界」という位置づけの作品もあります。では、その∀ガンダムの世界に登場する機体の武装名はどうなってしまうのか?

正解は「ビーム・ライフル」「ビーム・サーベル」といった表記になっているため、武装名のルールからすると宇宙世紀作品の一部としての要素のほうが強いと思われます。2015年3月に終了した「機動戦士ガンダムGのレコンギスタ」もどうやらこの世界観なので、この作品がゲームに登場する際は「・」ありの表記だと思われます。機会があったら注視してみて下さいね。

さて、今回にて私の記事も終了となります。これまでつたない話にお付き合いいただいた皆様に厚く御礼申し上げたいと思います。ご声援、ありがとうございました。

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著者プロフィール

台風一家ゲームライター
ゲームを始めて、はや○十年となりました。小さいころはロボアニメをよく見ていたせいか、ライターになってもロボにやたら縁があります。「誰かの成功から学ぶ」ためでなく「誰かの失敗を繰り返さない」ために歴史を学んでいましたが、あまりその教訓は生かされていない気がしますね。