カメラもビデオも、ましてやインターネットもない昔の時代。
 
自然と調和して暮らしていた当時の人々は、様々な自然現象や人間の営み、感情の変化を自らの五感で体験していました。
 
それは、写真に残したり、SNSにつぶやいたりといった「一方向の記録」ではなく、噂として集まり、ふたたび他の人に広まる「集合知」となり、実際にそこに何かが「生まれる」ほどの力を持っていたのです。
 
人々が感じ取り、共有し、その集合知から生まれたもの。その何かが「妖怪」です。
 
つまり妖怪は、いないのに、いるのです。

こんな時代だからこそ

ゲームガンバをご覧の皆さん、ドーモこんにちは! ティーズガーデンの川中です。今日はいつもと少し違う雰囲気の内容になりそうですね。まあそう怪訝な顔をせずに、気楽に読んでいってください。
 
さて、世の中を一歩引いて眺めてみれば、現代人は何でもかんでも暴露しないと気が済まないように見えます。テレビをつけてもネットを開いても「〇〇の正体は〇〇だ!」や「成功のためのメソッドを教えます!」などの文句が氾濫し、挙げ句の果てには縁もゆかりもない赤の他人のプライベートまでもが、皆の興味の対象になる始末。
 
正体の分からないものを暴いたつもりになり、したり顔で知ったかぶる。こんな時代。否定はしませんが、あまりに無粋じゃあありませんか?
 
正体を語るにも、風情ってモンがあるのですよ。
 

ゲーム内の自宅でツチノコらしき生物とくつろぐ筆者

MHWでのツチノコ

そこでツチノコ。
 
「モンスターハンター:ワールド」には「環境生物」というコンテンツがあります。モンスター討伐とは別に、フィールド内に多数存在する生物を捕獲し、自宅で飼育できるという楽しいシステムです。環境生物たちは捕獲の難易度によってレア度が分けられています。
 

モンスターそっちのけでツチノコ探しに勤しむ筆者。後ろ後ろ〜!

環境生物たちはいずれも実在の動物や昆虫、魚類をモチーフにしたもので、生き物好きはもちろん、そうでない方でも「あれ、どこかでこれ見たことがある!」と思わせるものばかりです。
 

自宅の飼育生物たちの一例。左から筆者と「ユラユラ」「シンリンシソチョウ」

この環境生物の中に「ツチノコ」がおります。各方面に配慮してか、申し訳程度の後ろ足(ヒレ?)がつけられてはいますが、一般的にイメージされるツチノコの姿を再現していると言えます。
 

ツチノコ。アップで見るとけっこうカワイイ

ゲーム中でのレア度は4。中の中くらいか? ちなみにこのゲームでは懸賞金はもらえません(怒)!

現実世界でのツチノコ

ツチノコというと、現実世界では多額のバウンティ(賞金)がかけられていたり、未確認生物(UMA)としても有名だったりします。
 
こう書くと「ツチノコは未確認生物じゃなくて妖怪だよ!」とか「そもそも妖怪と未確認生物とを一緒にするな!」などとうるさ方が声を荒げそうですが、まあそう短気にならず最後までお読みください。

こんなトカゲ、見たことありますか?

ツチノコの正体は、マムシやヤマカガシなどの身近にいるヘビが餌を食べ過ぎて膨れたものだとか、単に他の細長い動物と見間違えたものだとか、そもそもツチノコ自体が本物であるとか、諸説入り乱れています。
 
とはいえ、多くの人にとっては、このトカゲがツチノコを連想させるのではないでしょうか。
 

おや、机の上に何かがいるぞ

これはアオジタトカゲ。オーストラリアや東南アジアといった、オセアニア地方に生息する爬虫類の一種です。日本でも飼育のしやすい爬虫類ペットとして、愛好家の間で親しまれています。
 

こんなツチノコみたいなトカゲ、見たことありませんか〜?

その特徴は、何といってもこの真っ青な舌!
 

「ペロッ……これはcaps lock!!」

このトカゲは敵に襲われると、この青い舌で思い切り「あっかんべぇ」をして敵を威嚇します。生き物は、潜在的な習性として見開かれたものには一瞬驚いてしまうので、威嚇の効果は十分あると思われます。
 
驚かすために舌を青くしたのか、舌が青かったから生き残ってこられたのかは不明ですが、これも生き物の不思議で面白いところですね。

知りたがり屋は早合点するぞ

こんな姿をしているので、実際に現代人がアオジタトカゲを見れば、ツチノコをイメージしても不思議はないでしょう。それほど自然と我々の脳裏には、アオジタトカゲめいたツチノコが刷り込まれていることになります。つまり「現代のツチノコ」を構成するエッセンスの大部分がアオジタトカゲである、と言っても過言ではないのです。
 
しかし、アオジタトカゲは近年になって日本に輸入されるようになったトカゲで、さらに一般の人の目につくほどポピュラーになったのは、定かではないもののおそらくここ30〜40年ほど。つまり、アオジタトカゲがツチノコであれば、大昔から騒がれるような存在にはならないということになります。
 
ではなぜ、ツチノコは昔からの妖怪とされるのでしょうか。その謎を解くため、少し時代を遡ってみましょう。

リアルタイムで読んだことのある人、集合!

1974年、当時の少年たち(もしくは少年の心を持った大人たち)の心を躍らせたマンガが誕生します。
 

これが「幻の怪蛇バチヘビ」の表紙。紙媒体のほか、電子書籍でも出版されているのでKindleなどをチェックしてみよう

これはあの「釣りキチ三平」でおなじみ、矢口高雄先生による「幻の怪蛇(まぼろしのかいじゃ)バチヘビ」という作品です。
 
作品のあらすじは、作者である矢口氏が過去に出会った「幻のバチヘビ」という生き物を、自らの手で再び探しに行くというもの。
 
限りなく現実に沿った視点で未知の生物との出会いを描く、たいへん興味深い作品ですので、まだお読みでない方は是非チェックしてみてください。単なる珍獣ハンター的なバラエティではなく、自然や生き物に対する敬意が随所に描かれている、矢口先生ならではの一冊になっています。

バチヘビとは、そしてその影響力

さて、この作品に登場するバチヘビは、表紙のイラストを見るに、以下のような特徴が描かれています。
 
・色は黒褐色であり、背中に斑点がある
・体長は約50cm
・胴の太さはビール瓶ほど
・二枚舌をペロペロさせる
・胴体からちょこんと頭と尻尾が出ている
 
作中では「バチヘビという幻の生き物が実在する可能性がある」というロマンと合わせて、「ヒメハブ(南西諸島に生息)」や「トビヘビ(東南アジアのジャングルに生息)」といったバチヘビに似た国内外のヘビとの比較だけでなく、ツチノコとの関連性も示唆されています。
 
見ようによっては、バチヘビがアオジタトカゲの特徴を揃えていなくもないのですが、作中ではアオジタトカゲに関する記述はありません。いずれにせよ、これを読んだ当時の人たちのイメージはきっと「ツチノコ=バチヘビ型」に固定されたことでしょう。
 
時系列から考えて、このバチヘビに形の似たアオジタトカゲが見られるようになったのは、この本より後の時代です。
 
したがって、バチヘビ(ツチノコ)にたまたま似ているアオジタトカゲを目撃した人々が、「ツチノコの正体はこのトカゲだったのか!」と思い込んでも不思議ではないのです。
 

ツチノコは実在なのか、幻想なのか?

冒頭に書いたことへの補足になりますが、現代人のほとんどは「五感」を使うことを忘れ、「目」と「耳」だけを使って生きています。とりわけ「見る」ことだけで納得しがちです。だからこそハッキリしたもの、一目で納得できるものが求められる社会になっています。
 
そうなると妖怪のような「感じ取る」存在は忘れ去られてゆき、未確認生物のような正体を「暴く」存在に自然と注目が集まります。わざわざ感じ取らなくても、スマホで写真を取れば記録できるし、ネットでググる(誤用)と用が済みますからね。
 
こうやって、かつては妖怪だったツチノコも、未確認生物という正体ありきのものへと変わっていきました。どちらが良い悪いではなく、前者は人々が感じ取った集合知、後者は人々の探究心が生んだ単体、に過ぎないことを再度念押ししておきます。
 
では、もっと昔の時代はどうだったのでしょうか?

妖怪が跋扈(ばっこ)した江戸時代

さらに時代を遡ること200年以上。実は江戸時代には既に、妖怪の画集が完成されていました。
 

現在でも出版されている画図百鬼夜行。およそ250ページに渡って、妖怪たちの墨絵が魂を持つかの如く描かれている

これは鳥山石燕(とりやませきえん、1712~1788年)という絵師が残した「画図百鬼夜行(がずひゃっきやぎょう)」という妖怪の画集です。
 
この画集には、夜道や森の中で出会いそうな妖怪、例えば「河童」や「天狗」などをはじめ、「ろくろ首」や「まくらがえし」、「雲外鏡(うんがいきょう)」など、住居あるいは人物にまつわる存在、現象も多数収録されています。
 
つまり、生き物や自然現象、そして恐怖体験まで、当時の人々の体験(=集合知)が、正体を暴くことを目的とせず、感じたままに妖怪として描かれているのです。いや、すでに妖怪として存在するものに絵師・石燕が新たな命を吹き込んだ、といったほうが正確かもしれません。
 
この原始の妖怪たちを、現代の私たちにわかりやすく翻訳してくれたのが、かの水木しげる先生であることも忘れてはいけないでしょう。

江戸時代、原始のツチノコ

さて、この画集には「野槌(のづち)」という妖怪が紹介されています。諸説ありますが、これがツチノコの始祖(原種)だとされており、筆者もその説を信じている一人です。
 
野槌の画にはこんな一文が添えられています。
 
「野槌は草木の霊をいふ。又沙石集に見えたる野づちといへるものは、目も鼻もなき物也といへり」
 
そこには毛むくじゃらで細長い生き物が、草むらのなかで、獲物でしょうか、ウサギをくわえて飛び跳ねている様子が躍動感豊かに描かれています。
 
さらに、同じく江戸時代中期に発行された寺島良安による「和漢三才図会(わかんさんさいずえ)」にも、「野槌蛇(のづちへび)」というツチノコを想起させる生物が描かれています。
 
 
この資料ではこの野槌蛇、河川の周辺に出没し、体長は1m足らず、たいへん動きが早いという記述があります。

何がツチノコを生んだのか?

さあ、ではこの辺りでツチノコについてまとめてみましょう。先に挙げた歴々の資料から推測するに、ツチノコとは以下のような妖怪だと考えられます。
 
・河原に生息する
つまり背の高い草が生えており、視界が悪い環境によく出現する。
 
・動きはとても速い
体の具体的な特徴をじっくり見ることができない。カメラのない時代だから記録にも残せない。
 
・泳ぎがうまい
細長い体で体をくねらせて泳ぐ。動きが速いことも相まって、手足があるか等の確認ができない。
 
・肉食である
自分の体重と同じくらいの重さの獲物をくわえて運べるパワーがある。
 
・ジャンプできる
ジャンプせず歩くときは、背中を丸めて伸ばしの繰り返しで、尺取虫のような動きをする。
 
ほかにも……
 
・鳴く
・全身が毛で覆われている
・知能が高い(?)
・毒がある(?)
・酒を好む(?)
 
まだ足りない部分はあるかもしれませんが、一応こんな感じです。

ここから何を感じるか

これを読んで「ああツチノコとはそういうものなのだ」と感じた方は、そのままの感性を大切にしてほしいと思います。
 
なまじ生き物のことを知っている人間からすると、元になった生物やその理由がピンと来てしまいますが、それも無粋でない範囲で楽しむ分には良いのではないかと思います。
 
ただ、そのピンと来たこともあくまでツチノコを構成する成分の「大部分か否か」というだけの話です。妖怪についてその存在を単品で語ること自体がナンセンスなのですから。
 
映画「燃えよドラゴン」でおなじみの俳優ブルース・リーも作中でこう言っていました。「月を目指すのに、月を指差すようなものだ」と。「月を見ずに指先を見ている」と。このシーンは有名な台詞「Don’t think, feel.(考えるな、感じろ)」を含んでいるのですが、妖怪を感じ取るのもこれに似たところがあります。
 
そういう意図もあって、あえていくつかの要素にはハテナマークをつけました。疑問符というのも感じ取ることには必要で、YESかNOだけで割り切ろうとすると、妖怪たちにきっと笑われるでしょうから。

私の中のツチノコ

さて、ここまで雲をつかむような話ばかりしてきましたが、じゃあお前の意見はどうなんだという声が上がりそうなので、最後に私の考えを書いておきます。
 
ツチノコを生み出した最大の存在。「彼ら」は本当の妖怪になってしまったのでしょうか? 私は近代になって絶滅したといわれる彼らが、四国のどこかで今も生き残っていると信じています。

あなたがそう感じたのなら、そういうことなのです

そして「現代のツチノコ」はこの先どう変化していくのでしょうか。この「MHW」というゲームだけでなく、「妖怪ウォッチ」や「けものフレンズ」など、流行のコンテンツでもツチノコをモチーフにしたキャラクターが登場しています。彼らも色々な形で人々に影響を与え、そして自らの姿をも変えていくことでしょう。
 
人の感じる力が失われない限り、その解釈が変わろうとも、妖怪は生き続けていくのです。

おわりに

さあ、この手の話はどうしても長くなってしまいますね。しかし、あなたがそう感じたのなら、そういうことなのです。
 
それでは今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。次回はまた違う切り口でお届けしたいと思いますので、どうぞお楽しみに。ではまた!
 
※画像や文章の無断転用はおやめください。
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著者プロフィール

川中 豪(たけし)
川中 豪(たけし)オフィスティーズガーデン主催
生き物とゲームを愛する電脳ナチュラリスト。動物では特に爬虫類や古生物が好きです。最近は「ウルトラストリートファイター2」にもハマっており、ブランカでプレイしています。